歯車族バトン
2018/08/20
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日本橋店主の語る「時代を刻み、時を愛する、プロが選んだこの時計」-店内に流れるのは、真心を込めた時間

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第2回「店内に流れるのは、真心を込めた時間」

柴田:時間ということで考えると、お寿司屋さんという仕事ではとても重要な要素に思えます。握る速さや出すタイミングだとか。ネタにしても季節の旬という時間軸があります。ご自身では時間についてどのように意識していますか。

佐久間:美味しいものを提供するのは当たり前で、その上で、お客様がお店に来られてからお帰りになるまでの時間と空間を大切にしようと思っています。だからこの間のストーリーを思い描き、このタイミングでこういう風に出していこう、お酒はこんな風にお薦めしようと。お腹のすき具合やその時の体調もあるので、様子を見ながら、握り方も大きく握るのか小さく握るのか。そしてお帰りになられる時に「また来るね、ごちそうさま」と言われると、よかったな、いい仕事をしたなと思います。長くても2時間程度ですが、どれだけお客様に楽しんでいただくか、そのためにどういう時間の使い方をするかをつねに考えています。

柴田:2時間という、ひとつのステージのようなものですね。

佐久間:まさにそう。先代からも、お寿司屋は基本的にカウンターの対面商売で、そこは舞台であり、我々は役者としてお客様にどのようにして満足を提供するかを考えるようにといわれています。

柴田:70年近いお店の歴史で、三代目として何を受け継いでいますか。

佐久間:とにかく「真心を込めて握りなさい」というところが一番ですね。握りは、あくまで人と人じゃないですか。どう握ろうが変わらないと言ったらそれまでで、気持ちを込めて握ったら絶対に美味しい。お客様もまたいらしていただける。

柴田:それもお寿司ひとつじゃなくて、タイミングや深く相手のことを考えて提供するということが真心なんでしょうね。でも日本橋の老舗という看板を背負うことにプレッシャーはありませんか。

佐久間:あまり考えていないんですよ(笑)。もう当たり前で。生まれた時からお寿司屋で日本橋育ち。子供の頃は、学校帰りに三越に寄り道して、遊び場にしていたぐらいです。続けていく大変さというよりも、今を一生懸命やっていければ未来はあると思います。

柴田:ところで、お客様の着けている時計にも目がいくものですか。

今のお気に入りと語る、日本橋三越本店で購入したというIWC。

佐久間:もちろん!僕も興味があるので(笑)。「時計、いいのしていますね」と言うと、「あ、分かる?」と始まって、そこから話に花が咲くことも。先日、常連のお客様ですが、カウンターに座ったら時計を外すんですよ。「どうして外すんですか、着けたままでいいじゃないですか」と聞いたら、「カウンターが檜だから、傷ついたら悪いから」とおっしゃって。そこまで気遣いをしていただいて本当に感動しました。お店のことを可愛がっていただいている。ありがたい話です。

柴田:名店とは、そういうお客様との付き合いによって成り立つということでしょうね。

佐久間:本当に実感しました。いい時計を着けていらっしゃる方は、身なりもしっかりしている印象です。

柴田:時計の格みたいなものがその人自身に重なっていくような。

左はパイロットウオッチ スピットファイアクロノグラフ。右はウブロのクラシック・フュージョンモデル。

佐久間:そうですね。そこで判断してはいけないんですが、つい時計に目が行ってしまいます。

柴田:ご自身では時計を着ける時に心がけることはありますか?

佐久間:時計に限らず、すべてにつながるんですが、いいものを着たいとか、格好よく生きていこうと思ったら、ある程度体型をきちっとしておこうと。マラソンやトライアスロン、ゴルフ、SUPにパーソナルトレーナーのトレーニングも受けています。

柴田:かなりお酒もいけそうなのに、絞ってますね。

佐久間:飲んでも食べないんですよ、お腹がすいても絶対に夜は食べません。

柴田:ストイックですね。それは寿司職人としての感性を研ぎ澄ませるためでもありますか。

佐久間:人間はお腹がすいて起きるぐらいが丁度いいんですよ。それにお腹がすいて魚河岸に行くじゃないですか。するとこうして料理したら美味しそうだなと発想が湧いてくる。もし多めに買ったとしても売れるけど、少なく仕入れて売り切れたらそれでもう終わりなんですよ。

柴田:それはやっぱりプロの矜持ですね。

Photography by Shinsuke Matsukawa

日本橋三越本店 バイヤー
渡辺 健司

私服の佐久間さんはアスリートのようなエネルギッシュなオーラを纏った方でした。時計はシンプルなものが多い中に、ヴァルカンのような拘りある時計を選ばれているのが印象的でした。これからも素敵な時計を見つけ、楽しんでいただきたいと存じます。

 

今回で、繁乃鮨 三代目 佐久間一郎氏との歯車族対談は終了です。

今回の対談に関してのご意見・ご質問をお待ちしております。ぜひコメント欄からご投稿ください。

柴田 充さん

柴田 充
Mitsuru Shibata

1962年 東京生まれ。フリーライター。コピーライターを経て、出版社で編集経験を積む。現在は広告のほか、男性誌で時計、クルマ、ファッション、デザインなど趣味モノを中心に執筆中。

佐久間 一郎さん

佐久間 一郎
Ichiro Sakuma

1967年 日本橋生まれ。大学卒業と同時に家業に入り、2001年にお店が新しくなったのを機に、三代目を継いで代表取締役となる。これまで日本橋本町一丁目青年会長や中央区常盤小学校・幼稚園のPTA会長、日本橋三四四会会長などを歴任。現在は日本橋料理飲食業組合理事、日本橋法人会厚生委員会副委員長などを務め、地域の交流も積極的に行なっている。趣味はゴルフや体を鍛えること。

繁乃鮨
江戸時代、日本橋には「毎朝千両ずつおちる」といわれるほどの大規模な魚河岸があった。繁乃鮨の前身である、日本橋魚河岸の魚屋「高根屋」は、当時から宮中の神事に使われる鮮魚を宮内庁に納めているという。昭和初期に鮨屋を創業。以来、代々受け継がれる眼識と職人技は食通たちを唸らせている名店。
住所:東京都中央区日本橋本町1‐4‐13高根屋ビル1F
電話番号:03-3241-3586
営業時間:11時〜 13時30分、17時〜21時
定休日:土日祝日

 

第1回
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