昨年末、公開型スタイルで行われた特別編「歯車族バトン」。
独立時計メーカー『KIKUCHI NAKAGAWA』の中川友就氏をお招きして、普段は伺えない“いい時計の条件とは?”について、広田氏とお互いの想いをぶつけ合っていただきました。
第1・2回は対談内容をご紹介しましたが、第3回では対談の観覧募集にご応募いただいた際にお預かりした、お二人への質問とそのお答えをご紹介します。
独立時計メーカー『KIKUCHI NAKAGAWA』とは?
日本は、GPSソーラーなどの独自の先進技術や、伝統的なマニュファクチュールの技術も擁する時計生産先進国である。そして大手メーカーばかりでなく、新進の独立系ブランドも多く誕生している。KIKUCHI NAKAGAWAもそのひとつ。パリで時計作りを学んだ後、現地で時計修理の実績を重ねた菊池悠介と、刀匠修業から時計師に転向し、シチズン時計勤務や小規模時計製造のプロセスを経験した中川友就というふたりの時計師が昨年立ち上げた。そのデビュー作となるMURAKUMOは、王道スタイルである小径の2針+スモールセコンドに、ブレゲ数字やスペード針といったスイス時計の伝統に則った意匠をちりばめる。こうした先人へのリスペクトに加え、ブランドの個性を主張するのがケースや針に施された“磨き”だ。現代の匠と呼べる手仕事により、類い稀な美しさが際立つ。クラシックかつモダン。日本ならではの美的感性と熟練の技が生んだ注目作だ。
第3回「時計を知り尽くした2人への疑問を聞いてみました!」
広田雅将氏への質問
Q:「インデペンデントで時計を造る人、または目指している人は意外と多いのではないかと思います。希少な時計を好む人達から信頼を得るため、重要なことは何だと思いますか?」
広田:「時計作りに限らず、すべてのスモールビジネスは、周囲の人間関係を焼き畑農業のように消費して始まるもの、と思っています。ですから、周囲の人間関係を壊さないというのは、最低限の条件でしょう。」
Q:「新興メーカーについてお聞きかせください。広田さんが最近はまっているものは?」
広田:「新興メーカーの質は上がりました。ただ、大手メーカーと同じ気分では付き合えないと思っています。つまり、ある程度壊れることを許容しないと、ということですね。ある程度の規模があるジュルヌでさえも、そうだと思います。なお、最近はまっているのは、地味なB級メーカーの昔の時計です(笑)ゾディアックとかエニカとかです。」
Q:「腕時計本体とベルトのマッチング、更には重量バランスを教えてください。」
広田:「クロノスにも書いたのですが、薄い時計には薄いベルト、重い時計には重い、あるいは硬いベルトを合わせた方がいいと思います。ヘッドの重い時計は、硬いベルトで、無理矢理固定するしかないんですよね。なお、マッチングが求められるのは、アンティークウオッチ、それとビジネスウオッチ以上、とりわけドレスウオッチかなと思います。」
中川友就氏への質問
Q:「作り手視線から、時計とはどんな存在ですか?」
中川:「機械式時計に限って言えば、電気的な要素を含んでいませんから、機械加工を極めれば、何とか作る事も出来る。(本当は非常に大変なんですが…)そのちょっとハードルが低いと感じさせる所が、モノづくりをする人間の心を突いているのだと思います。」
Q:「シンプルウオッチもディテールを突き詰めることで、豊かで、奥深い表情を湛えるようになると思います。難しい事は分かりませんが、あくまで自分なりにパテックの96は魅力的な時計だと感じていますし、シンプルだからこそ多様な伸びしろを持っているのがカラトラバスタイルだとも思っています。中川さんはカラトラバという素材についてどのようにお考えですか?」
中川:「デザイン自体は相方の菊池が担当していますので、菊池さんに聞いてみたほうが良いかもしれません。個人的にはカラトラバは全く意識していません。確かに、ブレゲ数字を使った王道なデザインではありますが、デザインを決めるにあたって、『アイコン化』が出来る事、と言う条件を、菊池さんにお願いしました。アイコン化はデザイン的な差別化を含んでいますが、デザインの差別化、イコールアイコン化ではありません。時計を見て頂ければわかりますが、パッケージングの良さと、仕上がりの良さ、この2方向からのアプローチによって、他に無い物になっていると気づくはずです。」
Q:「Murakumoの中で、一番気合いを入れたところは?」
中川:「針とケース。一番見える部分だからです。形状を保ちつつ、磨かれた針とケースのモノリスの様な異質感を味わって頂きたいです」
いかがでしたか。 普段は聞けない時計への疑問や二人の想いが少しでも伝わりましたか。 公開スタイルの歯車族バトンは、近いうちに実施する予定です。 募集告知をどうぞ楽しみにしていてください。
今回の対談に関してのご意見・ご質問をお待ちしております。ぜひコメント欄からご投稿ください。
広田 雅将
Masayuki Hirota
時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長
1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。
中川 友就
Tomonari Nakagawa
ウオッチメーカー「KIKUCHI NAKAGAWA」代表
刀匠での修行の後に時計師へと転向する。時計専門学校卒業後、フランスでの修行を経てシチズン時計株式会社に就職。腕時計の設計、製造、調整など大規模製造業務に一通り従事。その後、東京時計精密株式会社へ転職し、独立時計師の小規模な製造現場に携わる。退社後、菊池悠介氏と共に、KIKUCHI NAKAGAWAを立ち上げて、現在に至る。