今回、時計クリニックに持ち込まれた時計はセイコーシャリオです。国産時計とあって製造年月も明示され、作業も順調に進むかと思いきや大きなハードルが。それでも所有者Mさんにとって大切な祖父様の形見であり、なんとか蘇らせたいとの思いが込められています。時計クリニックでは専門設備を備えるだけでなく、熟練技術者のノウハウや豊富なパーツストックを揃え、こうした難しいメンテナンス修理にも対応します。前回に引き続き、岸本幸一郎さんにお話を伺いました。
製作年代 :1969年製
キャリバー :cal. 2559
組み立て後は回転シミュレーターに設置し、さまざまな位置における歩度の姿勢差を計測します。検査には3日程度かけられ、規定の精度に達しない場合は再び調整作業に戻されます。この工程を経て、ようやく作業完了になります。
セイコー シャリオの特徴
①: レディースモデル用に開発された小型ムーブメント
裏蓋を開けた状態。文字盤の直径に比べると、コンパクトなムーブメントサイズがわかります。たとえ密閉したケース内でも侵入した湿気などで文字盤裏も汚れています。
②: ドレスウォッチらしい美しい仕上げが施された文字盤
文字盤には縦横に凝ったチェックパターンが施され、シンプルな2針が映えます。これを傷つけないよう、針を外す際もカバーの上から作業します。
③: エレガントなだけにデリケートな側面も
小振りかつ薄型に設計されたムーブメントは繊細さも併せ持ちます。分解してみると、裏抑えと呼ばれるパーツが破損していました。手巻き式のため、負荷のかかる部分でもあり、再生も難しいパーツですが、今回は交換品があり、事無きを得ました。
オーバーホールの目安とは
メーカーが推奨するオーバーホールの適性時期はありますが、これも使用頻度や環境によって大きく異なります。一般の方でも感じられる目安としては、時間の精度が落ちたり、パワーリザーブが短くなってきた、リュウズ操作の渋さや針を回した際の違和感などが挙げられます。今回の時計も何十年も使っていなかった状態からリュウズを巻いたところ、数分しか動かなかったためメンテナンス修理に出されたとのこと。ただ交換パーツも限られるため、年代の古い時計は早めにメンテナンスした方がいいと思います。
時計クリニックでオーバーホールを済ませたMさんのコメント
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貰い受けたのは35年ほど前でしょうか。自分にとってのファーストウォッチであり、これで高校生活を過ごし、大学受験も乗り切りました。当時もオーバーホールに出すことなく、それでも動き続けたのでさすがSEIKOと感心したものです。その後、何十年も使っていなかったのですが、いま40代後半になってようやくエレガントなデザインが似合ってきたように思い、メンテナンス修理に出しました。今回のオーバーホールをきっかけに、この時計が自分と同い年であることがわかって不思議な縁を感じています。これからはシャイニーなベルトに変え、パーティやレセプションに着けようと思います。シックなデザインは冠婚葬祭にも向いてますね。
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人生をともに歩む時計を大切にお預かりし、技術力とまごころで調整いたします。