第1回「コロナ禍に取り組むべきことは」
困難があるから変化に対応できる。今こそすべきことが見えてくる
――クオンタムリープ(株)代表取締役会長 ファウンダーほか、グローバル企業の社外取締役や顧問、アドバイザーも数多く務められています。しかしこのコロナ禍、海外に出ることもままならなくなりました。
「海外出張はすべてキャンセルになり、いまはもっぱらオンラインを使ってます。ただそれも世界中を相手にしていると時差が堪えますね(笑)。付き合いが長いのであれば話も早く電話でもいいのですが、そうでない場合は資料を共有しつつ話しをすることで、こちらの意図も伝わりやすく、より理解も深まります。しかしまだ完全にはテクノロジーが追いつかない状況です。リモートで大丈夫と言いますが、そんなことは絶対ないのではないかとも思っています。会うことでいろいろな発想が湧いてくるわけだから。僕がいま一番言っているのは、分断というか、一つの輪が外されたというようなことが起きているということです。国境はもちろん、社会でも人と会社が遮断されています。オンラインでは偶然人と会ったりする機会もなく、情報量が何百分の一に減っているようにも感じています」。
――そうした状況に対し、どのように向き合ってますか。
「それをネガティヴに捉えるか、ポジティヴに考えるか。僕はどちらかというとポジティヴに考えて行動した方がいいと思っています。困難があるからこそ変化に対応できる。デジタルトランスフォーメーションにしてもなかなか進められなかったものが、今回のような状況で変化しなければいけないという気運が高まったわけです」。
――ただその変化に対し、恐れを抱き、籠ってしまうケースもあります。
「動転するわけですよ。たとえばドイツや日本のようなモノ作りの先進国においては、自動車産業のような巨大な産業構造がありますが、むしろそれが弊害となってインターネットに乗り遅れたわけです」。
――「変化を促すのは大きな危機感である」というのはそれこそソニー時代からおっしゃっていました。
「変化に対する決断には、戦略が必要であり、いかに仮説を立て、検証、判断、行動するか。その想像力が必要です。こうした不測の事態について歴史的に調べてみると、ちょうど100年前にスペイン風邪が発生し、それも2波、3波と続きました。しかしその正体がわからない中、第一次世界大戦が起こって戦禍の広がりとともに兵隊が動くわけです。それに伴ってスペイン風邪が世界中に広がる。そこから学ぶことは、まず動くなということです。しかしそうはいかない。動くなというのは、人間の本能に反することです。とくにビジネスのトップは、直接現地で自分の目で判断することが大切でしょう。数字だけじゃなくて、裏にどんな人たちがいるのかを把握しなければなりません」。
――しかし移動もしづらくなり、企業活動も制約されていますね。
「本当に大変なのは中小企業であり、特に外食産業は悲鳴を上げているわけです。コロナを抑えるのはいいが、人の生活様式が変わり、経済が死んでしまってはいけない。そのバランスをいかに取るかというのがポイントじゃないかと思っています。そこで一番感じているのが日本の弱みはデータ分析ではないかということ。やはりデジタルの基本はデータであり、日本はその重要性をないがしろにしてきたことが今回はっきりしたように感じるんです。巨大なデータベースになるはずのマイナンバーも、もともとディスコネクトされたというか、まったく繋がっていないわけです。さらには判子社会という旧態然とした慣習も残っています」。
取材・構成 柴田充
写真 奥山栄一