春のきもの紀行「加賀友禅新作展」にてお披露目の11作品をいち早くご紹介します
「家庭画報特選 きものSalon」古谷尚子編集長と加賀友禅の魅力を探りに金沢へ。第二弾は、2月12日(水)から開催される三越春のきもの紀行「加賀友禅新作展」でお披露目の11作品をいち早くご紹介いたします。こちらの作品は、「お客さまが求めているきもの」を具現化すべく、三越のバイヤーと、11名の加賀友禅作家の皆さまとが共同で作り上げた新作の加賀友禅きものです。
今回は、お客さまに加賀友禅の魅力を再認識していただくため、作家の皆さまには”加賀友禅らしさ”を大切に、「日本の美しさ、花鳥風月」をテーマに制作を依頼しました。ぜひとも自然の風景を写実的に描く加賀友禅の美を堪能してください。
まずは会場で運命の一枚と出会っていただく前に、今回素敵なきものをお作りいただいた加賀友禅作家の皆さまの、製作したきものに対するこだわりや想いをお届けいたします。
兼六園の見所がつまった色留袖
「庭園(色留袖)/中出学」
優しく淡い色に染め上げた色留袖には、日本三名園に挙げられる金沢の誇るべき名所、兼六園の雅な情景が描かれています。
中出学先生「柄には松や梅、杜若、雪吊りなど兼六園の景色を散りばめ、加賀友禅の技法や伝統にのっとって制作。私にとっても原点回帰と言うべき作品になりました。
また、色留袖ということもあり、松竹梅を表現したいと思ったのですが、兼六園には竹がありません。どうしようか悩んだ末に、園内にある知られざる見所、竹根石(手水鉢)を八掛に描きました」
慶事にふさわしい色留袖の完成です。イベント会場では表には見えない八掛に秘められたこだわりもぜひご覧ください。
色彩と柄の大きさにこだわった訪問着は品のある趣に
「雪輪に茶屋辻(訪問着)/古泉良範」
顔映りのよい上品なクリーム地に描かれたのは、古典的な茶屋辻。そこに大胆な構図で描かれた雪輪が配されていますが、色のトーンがそろっているためとても上品な雰囲気です。
古泉良範先生「最近、色柄を控えめにというオーダーが入ることが多かったため、今回は制作していく上で、色をどれだけ抑えるかということと、全体的に柄を小さく細やかに描くことを意識しました。衣桁にかけて飾ると少し寂しく感じるかもしれませんが、着姿はとても上品に。年齢を重ねてもずっと楽しんでいただける訪問着だと思います」
淡い色彩の雲取りが、美しい奥行きを生み出す訪問着
「雲取り四季文様(訪問着)/鶴見晋史」
裾には梅や桜、萩など四季の花々が描かれ、地色に馴染むほどの淡い色で描かれた雲取りは美しく、遠近感のある情景を表現しています。
鶴見晋史先生「季節を問わず着ていただけるように、梅や桜、秋の花である萩、紅葉などを描きました。五色で彩色した雲取のぼかしがうまく表現できたと思っています。 制作中にもう少し濃い地色にしようかと悩んだこともあったのですが、色を薄くしたことで落ち着いた雰囲気に仕上げることができました」
松竹梅の表情を爽やかな彩りで現代風にアレンジ
「最寒三友(訪問着)/太田昌伸」
最寒三友とは寒い季節にも耐える松と竹、梅のこと。古くから慶事に欠かせないこの文様を清涼感のある色彩で現代風にアレンジしました。
太田昌伸先生「今回は松竹梅がテーマ。王道のこの文様をいかにすっきりと、軽やかに表現できるかにこだわって制作しました。
また、上半身の前と後ろにも華やかに文様を配置し、パーティーやお食事会などのシーンで、座っていても華やかな装いを楽しんでいただけるように仕上げています」
落ち着きのある加賀友禅にひとさじの華やかさ
「清韻(訪問着)/一川忍」
今回唯一の女性作家である一川忍先生の新作は、加賀友禅の落ち着いた雰囲気の中に、華やかさもあわせ持つ訪問着です。
一川忍先生「普段あまり古典柄を描かないのですが、今回は好きな色や柄を用いてモダンな要素を加え、華のある訪問着を制作しました。淡い紫のようなピンクのような、ニュアンスのある地色にもこだわっています」
実は裏地の八掛には贅沢にも大きな鶴を彩色。着ている女性だけが楽しめる、遊び心あふれる一枚に仕上がっています。
風や時の流れなど、目に見えない情景も表現
「霞ヶ池(訪問着)/佐藤賢一」
制作過程を取材させていただいた佐藤賢一先生は、兼六園にある広大な霞ヶ池を題材にしました。
佐藤賢一先生「霞ヶ池の周辺は、一年を通して四季折々の花が咲き、冬は雪吊りが水面に写る様が素晴らしい場所で、毎日のように観光客の方々で賑わっています。今回は、私自身も大好きなこの池をテーマに訪問着を制作しました。
加賀友禅は地味だと言われることもあります。そのイメージを払拭しようと、綺麗な色をたくさん用いました。また桜の花を散らすなどして、風の気配や時の流れも表現しています」
透明感のある色彩で古典の世界を表わした訪問着
「黄昏(訪問着)/本間哲哉」
淡い水色と白に限りなく近いアイボリーで染め上げられた透明感のある地色に描いたのは茶屋辻模様。美しい配色に心を奪われる訪問着です。
本間哲哉先生「今回は古典柄のひとつでもある茶屋辻です。古典の素晴らしさを伝えたかったので、配置や図柄はオーソドックスに。その代わり、色彩は加賀五彩にこだわらず制作しました。上品で大人の女性の色気が香るような訪問着になったかと思います」
四季の花々が咲き誇る東京の名庭園がテーマの色留袖
「小石川後楽園(色留袖)/濱田泰史」
兼六園を題材にした作家先生が多い中、唯一東京にある小石川後楽園の庭園を描いたのは濱田泰史先生。クリーム色に近いベージュの地色で、優しい雰囲気が漂う色留袖が完成しました。
濱田泰史先生「昨年は兼六園を描いたのですが、今年はどうしても東京の風景を描きたくて小石川後楽園に。庭園内にある八橋を上前の部分に配し、美しい自然に包まれた庭園の中を散策していただけるようなイメージで作りました」
大胆な柄と光の美を訪問着に
「光の中で(訪問着)/高田克也」
華やかな大輪の花々と、流れるような清らかな色のラインが特徴的な訪問着には、西洋の香りも漂っています。
高田克也先生「季節によって光も気温も湿度も違います。その変わりゆく美しさを淡い彩りのラインで表現しました。加賀友禅は石川のくもり空のような色が多くなるので、今回は少し都会的なパステルカラーで仕上げました。背の高い、現代の女性の体型にも似合うよう、柄を少し大きめにしています」
まとまる、結ばれる、縁がつながる熨斗文様の訪問着
「結(訪問着)/柿本結一」
今回は熨斗文様を題材に訪問着を制作。実はご自身のお嬢さまに作った振袖から着想を得たそうです。
柿本結一先生「色々な人とまとまったり結ばれたり、ご縁が繋がって欲しいという親の想いで娘の振袖に熨斗文様を描きました。今回のこの訪問着も着ていただく女性に向けて、同じ願いを込めています。振袖を卒業した30~40代の女性にいかがでしょうか」
若い女性に伝統柄の魅力を届ける愛らしさの香る訪問着
「四季逍遥(訪問着)/山田武志」
愛らしいピンクの地色に少し丸みを帯びた草花や茶屋が描かれた訪問着。古典柄の持つ品格に加え、大人の可愛いがつまっています。
山田武志先生「これまで製作したものは古典の作品が少なかったので、今回は挑戦する気持ちで茶屋辻をテーマにしました。古典柄は年配の女性向けというイメージがあるのですが、若い女性にも着ていただけるような色や図柄で制作。どうぞ古典の魅力をぜひとも実感してください」
次回はこの11作品の中から「家庭画報特選 きものSalon」古谷尚子編集長が厳選したシチュエーション別おすすめの3作品をご紹介。公開までしばらくお待ちください!