第4回「最後に買うべき時計とは」
僕はモノ作りの会社で育ったこともあって、モノが好き、だから時計も好き
――時計選びには何か基準がありますか。
「自分の好みはさておき、購入には理由が必要なんです。とくに家人には。うまく説得するには、たとえばクロノグラフであれば講演時のカウントダウンに必要だといえば、相手はぐうの音も出なくなる (笑)」。
――うーん、時計愛好家にとっては参考になります(笑)。時計への興味はどのようなところに?
「時計って長い期間をかけて見ていると、その時代が反映されていることがわかります。経済的にイスラム系が潤えば、彼らが欲しいようなデカい時計が増えてきます。そういう変化が面白いですね。国産ブランドの高級レンジは、いまシンガポールで売れてますね。ただよくできていてコストパフォーマンスも高いのだけど、何となく買う気にならない。日本という国は、大量生産・大量消費に侵されちゃっているから、安さへの脅迫観念が強すぎるんじゃないかと思います。だから本当の高級品が出てこない。みんながコスト意識に嵌り過ぎているのかもしれませんね。クルマやカメラだってそうでしょう」。
――普段はどんな時計を愛用されているのでしょう。
「今日着けているのはショパールのミッレミリア、ほかにはフランクミュラーのマスターバンカー、ウブロの初期モデルを着けることも多いです。とくにこれはソニー時代、僕が頼んで特注した、試作機のヒューマノイドロボットのQRIOを文字盤にレリーフにした世界に1本しかない時計です。僕はモノ作りの会社で育ったこともあって、モノが好き、だから時計も好きですね」。
――モノというのは、あがりというのはあると思いますか。これを買えば、もうこの趣味はいいというような。
「ないんじゃないですか。好奇心と同じで。ただ80歳を超えてから思っていましたが、昔だったらワインでも『今年のボルドーはいいぞ』とか楽しみにしましたが、あれは10年待たなきゃ飲めないわけです。そうすると今からどのくらい生きているのかなと思うと、あまり買わなくなりましたね。クルマも高級車に乗っても、あまり面白くないと思って。60歳の時に赤いポルシェを買った時は楽しかったけど、そういうのは段々卒業してくると思います」。
――時計はどのように楽しんでますか?
「朝起きて、スケジュールを見る。今日は経団連の会議があって、銀行の人と会食があったりとすれば、それに合わせた格好を考えます。そこで国産の背広を着て、時計も目立たないようにして行くわけです。それがベンチャーの人たちとわいわい立ち話をする日は思い切って派手にするとか。そういう1日のスケジュールによって、洋服や時計も変えて楽しんでいます。これが面白いですね」。
――まだまだコレクションが増えそうですね。
「いやいや、もう。買うにはまた家人への理由を考えなきゃ(笑)」。
取材・構成 柴田充
写真 奥山栄一
<ページトップ写真の時計>
インタビュー当日、選ばれたのはショパールのミッレミリア。