Q:篠原さんが目標とする人物や、作りたい時計は何ですか。
篠原: 目標というのであれば、菊野先生みたいになれたらいいなと思っています。ただ、全部ひとりで作ることを目標にしているというより、自分が思い描くものを表現したい、形にしたい気持ちの方が強いと思います。なんとか時計作りでご飯を食べられるようになりたいです。
今後の活躍に注目が集まる篠原氏。
Q:広田さんに質問です。篠原さんへの今後期待していることはありますか。
広田: この10年くらいで、日本の時計をめぐる環境は大きく変わったと思います。菊野さんや浅岡さんが成功されて、その後、KIKUCHI NAKAGAWAや飛田直哉さんが時計を作るようになって、日本の時計メーカーも海外で名前が轟くようになってきています。その中で新しい世代が出てきて、期待といえば、面白い時計をじゃんじゃん作って、世界中のコレクターたちに「また日本人が新作出したぜ」みたいにバズるような感じになって欲しいなと思います。
篠原: やりたいですね。作りたいです。
広田: あとは、支えてくれるみなさん。そういう人たちが厳しく言ったり、良かったら褒めたり、切磋琢磨することで、さらに日本の物作り・時計作りの水準が上がっていけば楽しいなと思います。
Q:100年後の腕時計はどうなっていると思いますか。
広田: 腕時計は残ると思います。スマートウォッチもあるでしょうし、普通の形の腕時計も残るだろうとは思います。ただ、その一方で、ものすごく手間をかけた工芸品みたいな時計の割合は大きくなっていくだろうなと思っています。いわゆる趣味物ですよね。それはますます価値が出てくるだろうなと。日本には、それが出来る余地があるんじゃないかと思います。そこに篠原さんの時計が加わっているかもしれませんね。
篠原: 頑張ります。
制作中の卒業作品。
Q:最近、”あがりの時計”という言葉をよく言われていますが、お二人はこの時計を持てば、もう私の時計所有欲は収まるんじゃないかなという時計はありますか。
篠原: どうですかね。僕は自分で作りたいという思いのほうが強かったりするので。作ったら、また別のものが作りたいなとなるので、ないという答えになってしまいますね。
広田: 最近すごいなと思った時計はありますか。
篠原: A.ランゲ&ゾーネの時計は、今研究生として作っている時計の元になっているものですので参考にしています。『1815 トゥールビヨン』には秒針をリセットする機構があるんです。それはすごいなと思って。
広田: リュウズを引っ張ると秒針が戻るやつですよね。
篠原: そうそう。でもリュウズじゃなく、違う機構で秒針を戻すのを作ろうかなと思っているんです。
広田: それは楽しみですね。あがり時計については、一時期、真面目に考えたんですけど、はっきり言ってない。なぜかというと、自分のテイストは、歳をとっていくと変わっていくわけです。30歳の時に好きな時計でも、40歳になったら変わるかもしれない。そうなると、あがり時計は永遠にない。この時計いいな、あの時計いいなと選んでいって、最後に残ったものが、その人にとってのスタイルなのだろうなと思っています。結局、最後まで残ったものが、あがり時計であり、その人にとってのスタイルなのかなと思ってます。
写真 奥山栄一
広田 雅将
Masayuki Hirota
時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長
1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。
篠原 那由他
Nayuta Shinohara
1994年生まれ。大学卒業後、東京ヒコ・みづのジュエリーカレッジへ進学し、現在は研究生。第10回ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード最優秀賞を受賞。