歯車族バトン
2020/12/03
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第10回ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード 最優秀賞 篠原那由他1-建築家志望がなぜ時計師へ

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通年は8月に開催していた国内最大級規模の時計の祭典「三越ワールドウォッチフェア」が、今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響から10月へ変更となりました。今回は特別イベントとして、ヒコ・みづのジュエリーカレッジの在校生でありながら、ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード最優秀賞を受賞した、篠原那由他氏を招き、『クロノス日本版』編集長、広田雅将氏との特別対談を行いました。当日の対談の様子をご紹介します。(映像は日本橋三越本店インスタグラムでもご紹介)

時計学校の学生が、世界的権威ある賞を受賞した快挙に世界が沸く。

広田: 公開特別対談は毎回豪華なゲストにご出演いただいてますね。KIKUCHI NAKAGAWAの中川友就さん、独立時計師のカリ・ヴティライネンさん、同じく独立時計師の菊野昌宏さん、そして今回はヒコ・みづのジュエリーカレッジの学生である篠原那由他さんです。篠原さんは、まだ時計を完成させていない学生なのに、なぜここに来ていただいたか。頑張る若手時計師たちを表彰する世界的規模のイベントには、『ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード』と『ヤング・タレント・コンペティション』という2つの代表的なアワードがあります。この2つの共通点は、非常にレベルの高い審査員たちが、才能ある時計師たちを国籍問わずに選ぶという点でしょう。そして、篠原さんは『ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード』で第10回の最優秀賞を受賞したんです。これは驚くべきこと。というのも篠原さんはまだヒコ・みづのジュエリーカレッジに在籍している、完成させた時計がまだない学生なんです。

篠原: 今は研究生として時計を作っているところです。

広田: まずは今までの経緯から伺います。なぜ時計を作ろうと思ったんですか。


時計専門誌『クロノス日本版』の広田編集長。

篠原: ヒコ・みづのへ入学する前、建築の工業高校へ通って、それから美術大学で建築の勉強を4年して卒業しました。高校の時は作ることに興味があって入学しましたが、その後デザインの勉強がしたくなって、大学ではデザインを学びました。しかし大学に入ってみると、デザインもつくることも全部やりたいと思い始めて、それって何だろうと考えたとき、時計というのか、菊野先生が思い浮かんだんです。偶然、雑誌で菊野先生を見て、時計って一人で作れるんだということを知って、もちろん難しそうとは思いましたが、難しいことの方が面白かなとも考えていました。それで大学卒業後にヒコ・みづのへ入学しました。

広田: お父さんも建築家ですよね?なぜ建築に進む道を選ばなかったのか、素朴な疑問ですけど。

篠原: 建築のデザインも楽しかったのですが、自分がデザインすると、それをいつの間にか誰かが作って完成している、そんなことに違和感がありました。作る苦労とか、その作業工程とか、そういう部分に触れられないことが受け入れられなくて、やはり「自分で全部作りたい」と思ったんです。

広田: そんなときに雑誌に出ていた菊野さんを知ったわけですね。それはいつのことですか。

篠原: 4年前ですので、大学4年生の時です。建築関係への就職を考えていましたが、菊野先生の記事を見て、ビビビッと来てその場ですぐ決めたという感じでした。


会場に来ていた独立時計師の菊野昌宏氏。

広田: ちょうど独立時計師の菊野さんが会場にいらしているので、教え子である篠原さんについて伺ってみましょう。

菊野: 彼がランゲへ出展する時計を作りはじめたときは、まだ直接指導をしていませんでした。ランゲのアワードはレベルが高い賞ですから、正直難しいんじゃないかな思っていました。彼は今まで時計を作ったことがありませんし、まだ学生ですから。しかし彼の時計をつくりたいという意欲は強いとは感じました。

広田: 菊野さんのお話の補足になりますが、時計を作ったことのない人がいきなり『ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード』に出たいと時計を作り始めて、あれよあれよと受章するなんて、普通では考えられないことなんです。

篠原: 今まで日本人で受章した人はいませんから、私自身も驚きました。失敗も多かったですし、学校の授業もあって大変ではありましたが、楽しみながら挑めたと思います。

完成した「スロームービング・レトログラード」の動いている様子。動画提供:篠原那由他

 

広田: 『ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード』で篠原さんが1位を獲った『スロームービング・レトログラード』です。これについて少し説明してください。実物があればいいのですが、ランゲに持って行かれちゃったんですよね。

篠原: そうなんです。ランゲに寄贈することになっているので手元に残らないのはすごく残念です。これはレトログラードという機構で、左側が時針、右側が分針になっていて、頂点から対称に120度ずつ動くように歯数を計算してあります。普通のレトログラードと違うのは、カム以降に輪列が配置されており、その輪列はカムが落ちる瞬間に回ります。これは6498というETAムーブのベースですが、その歯車を使って、最後の車が高速回転すると、その抵抗で針がゆっくり戻るというものを作りました。

広田: つまり、これはダイヤル側に時と分をそれぞれ独立させたレトログラード式表示で、裏側にはスモールセコンドを搭載しています。ランゲに提供されたユニタス製キャリバー6498-1を根本的に篠原さんが作り直して、遠心調速機を利用して針を戻すように二つの輪列を組み込んでます。これによって、メイン表示が最後の目盛りに達したらゆっくりと穏やかに始点に戻るわけですね。

写真 奥山栄一

 

次回は、第10回ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード 最優秀賞に輝いた「時計の魅力について」です。

第1回
広田雅将さん

広田 雅将
Masayuki Hirota

時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長

1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。

篠原那由他さん

篠原 那由他
Nayuta Shinohara

 

1994年生まれ。大学卒業後、東京ヒコ・みづのジュエリーカレッジへ進学し、現在は研究生。第10回ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード最優秀賞を受賞。

第1回
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