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2021/09/24
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日本橋三越本店 ウォッチギャラリーSALON ―2 時計とのときめく出合い フリーアナウンサー 山本ミッシェ―ル

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第二回 今の時代に時計を持つ意味とは


日本橋三越本店「第24回 三越ワールドウォッチフェア(2021年8月18日~30日)」
企画の第二回 今の時代に時計を持つ意味とは

本会場にて、クロノス編集長 広田雅将さんと元NHK記者でフリーアナウンサーの山本ミッシェ―ルさんにお越しいただき語っていただきました。

広田:今年のワールドウォッチフェアは1階・6階・7階に展示があって見ごたえがありましたね。特に7階のクロックはとてもいいアイディアですね。僕はこの1年、クロック推しで、これからクロックの時代が来ると勝手に思っているんですよ、マジで。 ミッシェールさんが小学5年生の時にクロックを買って欲しいと親にねだったり、初任給でクロックを買われたりしたと伺いましたが、なぜクロックを買おうと思われたのですか。

ミッシェ―ル:もともとクロックの裏をのぞいて、中の機械を見るのがとても好きだったんです。あと、夜、何の音もない空間で時計のチクタクという音を聞くことが小さい頃からすごく好きでした。あのチクタクという音がすごく心地いいんです。


本館7階で展示されていたのは、最高峰のクロックをマイスターと共に自身で組み立てることができる
「メカニカ ウーレンバオザッツ by エルウィン・サトラー」の組み立てキット

広田:それ、よく分かります。

ミッシェ―ル:最初にクロックを買ってもらったのがフランスに暮らしていたときで、1800年代のアンティークの置時計でした。

広田:いいじゃないですか。

ミッシェ―ル:初任給で買ったのは、4,5歳の子どもくらいの大きさのロボット型の置時計です。これは、京都の北野天満宮で毎月開催される天神市で見つけました。お腹部分が時計で、頭の上にはオルゴールがついているんです。ちょっと物悲しい曲が掛かるんですよ。2回通り過ぎて、「やっぱりこの子を連れて帰ろう」と思って、乗ってきていた自転車はそこに置いて、タクシーで連れて帰って、また自転車を取りに行ったんです。

広田:しかしミッシェ―ルさん、相当攻めていますね。これは褒め言葉ですよ。時計の音の良し悪しって確かにあって、コチコチの振動音、つまり刻音ですけれど、スピードが早いと人は不安になるし、コッチンコッチンとゆったり刻む音は、人を心地良くさせます。

ミッシェ―ル:今着けている腕時計は、アンティークのアーネスト・ボレルのカクテル、ミステリーダイアルですが、私には少し音が早いかなと思っています。


クロックの音を聞くと心が落ち着くと語る、ミッシェ―ルさん。

広田:その機械はたぶん6振動、2万1,600振動だと思います。

ミッシェ―ル:私は、元々NHKWorldでテレビとラジオに出演していたのですが、ラジオの方はコロナ禍の番組縮小から英語ニュースの生放送の配信が廃止されました。10数年続けていたニュースの仕事を離れて、時間に対する意識が大きく変わったように思います。というのもニュースを読んでいた時は、常に秒単位までしっかり見える時計を着けて、秒までしっかり使い切って伝える世界で生活していました。でもその世界から離れたいま、もっと時間がふわっと分かる時計を、よく頑張った自分へのご褒美にと思って購入しました。それが今着けている時計です。

広田:いいですね。この時計は文字盤が小さいから、どうしても刻音が早くなってしまうんです。機械式時計の心臓部はコマのようなもので、金色のテンプという車があります。文字盤が大きな時計はコマが大きいですが、女性用はコマを大きくできないので、コマを早く回すんです。だから女性用の時計の刻音はチチチチと早くなるんです。


本館1階中央ホールではセイコー創業140周年記念特別展が開催されました。

ミッシェ―ル:なるほど。私、昔からメンズの時計を使うことが多くて、だから音がゆったりしていてよかったんですね。今回はじめて女の子っぽいのを買ったのですが、「なんでこの子はこんなにせわしないんだろう」と思っていたんです。その理由がよくわかりました。

広田:正確に動くために、せわしなくなってしまうのです。

ミッシェ―ル:時計の構造を知ると、刻音にも味わいが増しますね。

広田:目で見た記憶って忘れてしまうけれど、音と匂いの記憶ってそう忘れないですよね。小さいお子さんがいらっしゃるご家庭には、「クロック買ったら」と言っているんです。ポンポンポンという音はきっと子供たちの心に残ると思っているからです。

ミッシェ―ル:確かに。田舎の祖母の家にあった音とか憶えていますもん。そういう記憶を、自分の家庭でまた新しく作るのというお話、素敵です。

広田:音と匂いは記憶の源になると僕は思っています。そういう意味では、クロックはすごくいい。

時計で自分の生きている意味を知る

ミッシェ―ル:最近、スマホがあるので、時計をしていない人が増えているように思うのですが…。

広田:そうかもしれません。今の時代に時計を持つ意味を考えるなら、それは自分の生きている意味を確認するツールということかな。それなら、自分の好きな時計で自分の生きている時間を確認すればいいんじゃないかなと僕は思っています。もうそこに尽きるんじゃないかなと。

ミッシェ―ル:自分の生きている時間を確認するって、とても心に残る言葉ですね。

広田:と考えるなら、高いものを買う必要はないけれど、ときめく時計を持っていたいですよね。


時計の構造だけではなく、人生における時計を持つ意味についても熱く語る広田編集長。

ミッシェ―ル:そうですね。このせわしない時代を過ごしているからこそ、落ち着いて時計を見て、そして時間を確認したくなります。その行為が自分の生きている時間とちゃんと向き合うということかもしれません。

広田:ときめく時計を持つことはひとつの象徴だと思います。他人は自分のことを褒めてくれるわけではないと考えれば、素敵な時計を見ながら、自分で自分をちやほやすることって必要ですよね。

ミッシェ―ル:ちやほやってわかります。手元にアクセサリーがない男性は、最初に目に入るのは時計ですよね。女性はネイルをするとテンションが上がるんですが、それに近いのかな。

広田:ミッシェールさんに時計をおすすめするのなら、懐中時計の機械を載せた男性用時計がいいと思います。刻音もきっと気に入ると思います。

ミッシェ―ル:楽しそう。そういうのがあるのですね。

広田: 直径42ミリとか、すこし大きめですが。昔の懐中時計の機械をそのまま使っていて腕時計にしていて、カッチンカッチンと音がするんです。

ミッシェ―ル:とてもリラクゼーション効果がありそうですね。あと、最近はリモートワークが増えて、皆さんもストレスを抱えていますから、改めてクロックの音を楽しむということをお勧めしたいですね。

広田:電子音ではなく、クロックのポーンポーンという音はやっぱりいいですよ。

写真 奥山栄一


第三回では、「ライフスタイルと共に時計選びが変化する」についてご紹介します。お楽しみに。
記事や、「三越ワールドウォッチフェア」についてのご感想や、ご意見などコメント欄へのご投稿をお待ちしています

 

広田雅将さん

広田 雅将
Masayuki Hirota

時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長

1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。

ミッシェ―ルさん

山本ミッシェール
Michelle Yamamoto

フリーアナウンサー、NHK国際放送局キャスター・レポーター、元NHK記者

父親の仕事の関係で、アメリカで生まれ、イギリス、日本、フランス、ドイツ、香港で過ごす。筑波大学比較文化学類比較文学を卒業後、NHKに入局。その後、記者からフリーアナウンサーに転身。現在、世界160の国と地域で放送中のNHK WORLD TV「Science View」や、Coco de Sica TV「 Sound States」にレギュラー出演中のほか、多数の番組にゲスト出演中。また、法政大学、和光大学、新潟産業大学(ネットの大学managara)で英語学、スピーチ学の講師をつとめている。最新の著書は「やさしい英語でSDGs」共著(合同出版)、絵本「ちよにやちよに~愛のうた、きみがよの旅~」翻訳・朗読(文屋)。また、バイリンガル、トライリンガル司会者として天皇陛下の即位礼正殿の儀をはじめ、オリンピック招致、G7サミット、アフリカ会議(TICAD)など数々の国際的イベントで活躍中。

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