第3回「自分というブランドがないとどんな時計も輝かない」
広田:愛用の時計を見て驚いたのが、扱いがきれいな点です。日常使いの形跡はあっても、全然ラフじゃない。これは多分仕事にも通じると思うのですが、いかがでしょう。
平野:僕は風貌的にも攻めてイケイケの人と思われやすいんですけど(笑)、会社経営は7割から8割は守りだと思っています。よっぽど自信があったり、「よし、ここだ」という時には行きますけれど。でも経営者はみんな合理主義者ですし、私も効率経営という意識が強くあります。見栄を張るよりは、等身大のままがいいと思っていますし。結局、時計もクルマも、ファッションや家だって、どんなものであっても平野そのものじゃなきゃダメだと思っているんですよね。平野というブランドがきちんとしていないと、何を身に着けていてもあまり光り輝きません。まずそちらを磨くほうが先だと思います。
広田:ものに負けてしまわないということですよね。
平野:精度の高い時計と同じで、経営だったり、人付き合いだったり、そういったことをきちんと評価してもらえることのほうが大切で、まずそれありきかなと思っているんですけどね。でもプロが見ると、時計の扱いひとつでもいろいろな背景が見えてくるんですね、やっぱり。
広田:功成り名遂げた方が選ぶ時計って面白いんですよ。普通の時計を選んでも、扱い方が人それぞれ違うし。それが楽しいと思って。ところで次は何の時計を買いたいですか。いま関心のある時計はありますか。
平野:最近ウブロをしている友人が多くて。まだ僕は買ったことがないので、何故あの時計をみんな選ぶのかなとちょっと気になっています。やっぱり選ばれるにはそれなりの理由があるだろうし。そういう点では気にはなっていますね。
広田:王道と呼ばれるような時計には行かないんですか?
平野:パテック フィリップなんかはやっぱりしてみたいなと思っています。本当の王道ですよね。ヴァシュロン・コンスタンタンとか。でもやっぱり人がしているのを街で見たりすると…。
広田:そうですよね。明らかにその筋は通っていると思いました。手堅い、きっちり使える機能性があって、その中で変わったもの、人とかぶらないものを選ぶ。それは、ご自身で起業された時点で、人と同じ生き方をしたくないという気持ちにも通じるのかも。
平野:基本は個性的なものを選びたい、人と同じものじゃないものを選びたいというのはありますね。ちょっと変わっているんだと思います(笑)
広田:よい意味で、ですけどね。でも仮にそういうものを選ぶ日が来るとしたら?
平野:人間的にも丸みが出て、まん丸ぐらいになって「あの頃はなぁ」という話が7割8割になったら、そういう時計をしているかもしれないですね。でもまだやっぱりやるんだ、行くんだという気持ちが強いんじゃないかなと思っているんですけどね。
広田:まだまだ攻めるぞという気概。
平野:やんちゃなんですね(笑)
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広田 雅将
Masayuki Hirota
時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長
1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。
平野岳史
Tomoyoshi Nishiyama
フルキャストホールディングス 取締役会長
1961年神奈川県生まれ。神奈川大学経済学部卒業後、金融関係の会社に就職したが3年で退職。その後アルバイト生活を送るが、87年に家庭教師の派遣ビジネスで起業。92年に株式会社フルキャストを設立し、軽作業請負事業を開始。04年9月東証一部上場。その後は取締役会長に就任し現在に至る。