歯車族バトン
2018/08/23
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西野 朗氏「サッカーにおけるタイムマネジメントとは?」

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西野 朗氏「サッカーにおけるタイムマネジメントとは?」

広田:西野さんには、これまで四半世紀に渡って指揮官を務められてきた立場から、サッカーというスポーツにおける時間のあり方やつき合い方について伺いたいと思います。

西野:一定の時間を目安にゲームプランを立て、戦略を実行していくタイプの監督もいますが、私はサッカーのゲームにおいての決断に猶予はないと思っています。戦況を考え込んだり、必要以上にコーチにアドバイスを求める余裕はなく、シンキングスピードを高めなければいけないと思っています。

広田:私の印象としては、ゲームプランを事前に立てる時に、タイムマネジメントをしっかりされる方かと思っていました。

西野:日常のチームが動くスケジュールにはシビアですし、かなりうるさく管理する方です。チーム全体に影響を与えることですから時には罰金を科すこともあります。ただゲームの中では想定外、往々にしてプラン通りにはいきませんから、その瞬間を大事にと思っています。

広田:それだけ時間が濃密だと、主観的な時間と客観的な時間がズレたりしませんか。

西野:その決断を下すためには、自分は今の状況にいてはいけなく、3分後、5分後を想定したゲームに入っていなければいけないと思っています。

広田:同じ次元というのは?

西野:今この状況ではない、数分後の自分であり、チームを予測することです。5分後の戦況を予測し、想像力を持たなければ采配は下せませんから。

広田:未来の試合展開を予想して、そういう風に変えていくのですか。

西野:90分プラスアディショナルタイムをいかに考えていくか。「前半が勝負だ」と全てを前半に傾注する監督もいる。しかし試合は最後までわからないもの、ゲームというのは後半に激変したり、戦況がガラッと変わる。自分は、そういう瞬間を期待したいし、勝負はそこにあるんじゃないかと思っています。

広田:よくゲーム中に「いい時間が迎えられた」みたいなことを聞きますが、いい時間とはどういうことですか。

西野:自分たちがプランし意図するプレーができているような状況であれば、スコア的に負けていたとしても、ゲームの流れは自分たちがコントロールしていると感じられる。それがいい時間として捉えられるし、たとえハイリスクでも、自分たちのスタイルやコンセプトを貫き、ブレないでやることが重要です。

広田:勝負といえば、西野さんには“勝負師”というコメントをよく聞きますね。

西野:それはいつも強気の選択やポジティブな選択での采配をしている印象があるからだと思います。自分の中では試合前にあらゆるゲームプランを立て、とくにネガティブな状況になったことを想定した選択肢はたくさん持っています。準備している戦略なんですが、運だとか強運で片付けられてしまうのは少し残念ですね。

「選手たちは常に、数センチ、0コンマを戦っているんです」(西野)

広田:サッカーにおける選手の現役期間や引退後の人生は、相対的に他のスポーツに比べて短いように感じますし、それだけ時間がより凝縮されているようにも思います。

西野:常に爆発力と燃焼力を持ってプレーして生活していますからね。競技生活が長く続くものでもないと覚悟はしていると思います。反面この瞬間をいつまでも継続させたい、少しでも長くプレーをし、成長したいという思いで取り組んでいる。プロになったら毎年毎年、一試合一試合が勝負で、怪我して終わりという瞬間も覚悟しながらみんなやるわけですよ。その燃焼力はすごくありますし、爆発的に結果を出さないと、次に向かえないですから。

広田:限られた時間内で、集中して結果を出していくということですか。

西野:本当に時間と生きていますからね、みんなが。時間は待ったなしじゃないですか。どんな状況でも戦いは続き、次がもう待っている。そこに合わせていくしかないんですよ。今しかない。それに対して何をしなきゃいけないか。時って本当に1秒で変化してしまいます。

広田:それが世界と戦うということなんですね。

西野:オーバーではなく、それこそピッチで髪をかき上げた、1秒もかからないような瞬間に、もう10メートル振り切られちゃいますからね。数センチ、0コンマ何秒の世界で戦っているのです。そのシビアな感覚を分かっている選手だけが、予測してポジションを取り、正確なプレーができるのです。それによって危機を救ったり、未然に状況を変えることができ、さらにいい状況を作り出せる。それだけ時間に対して研ぎ澄ませた感覚が求められるのです。

「サッカー選手の時間感覚って興味ありますね」(広田)

広田:サッカー選手に時計好きが多いのも分かる気がしますね。ところで西野さんも時計好きと聞いています。それは昔から?

西野:腕時計は風呂以外、常にしていたことがあります。若い頃から時間が気になって仕方がなかったですね。四半世紀、指導者をしていますが練習に遅れたのは1回しかないんですよ。

広田:どうして遅れてしまったんですか。

西野:朝起きたら、着けていた腕時計が遅れていたんですよ。本当にそれ1回きり。でもサッカー以外の用事で、人との待ち合わせなんかは非常にルーズと言われてます。

広田:いいんじゃないですか(笑)。ピッチでカッチリできていれば。時計遍歴はどのような?

西野:若い頃はヨーロッパ遠征に行くと、その遠征先や現地のクラブチームのオリジナルウォッチなどを必ず手に入れたり。けっして高価なものでなくても、その時計を見ると「ああオランダにいたな」とか「ローマにいたな」とか思い出します。今回のワールドカップで着けた時計でも思い出すんでしょうね。ベルギー戦で「あと10秒早く回ってくれ」とか「延長になればまだ勝負ができるぞ」と思ったことを。終わった瞬間は、悔しくて時計を見ることもなかった。その時だけは時を感じたくなかった。

広田:アトランタ五輪の時には、アディショナルタイムが長いことに抗議して、ご自身の時計をバンバン叩いてましたね(笑)。

西野:あの時は、じつは秒針のない時計だったので、正確な計測はできていなかったんですよ。でも印象深かったようで、帰国したら数社から時計をいただけることになりました(笑)。

広田:そうでしたか(笑)。いまはどんな時計に興味をお持ちですか。

西野:軽量感があるのがいいですね。それと見やすいものを。

広田:それならばジャガー・ルクルトがいいでしょうね。ポラリスのスポーティシックなスタイルは白シャツにも合いますし、堅牢な作りなのでショックにも強いですよ。

西野:この先いい時を刻んで、時計を見る度、楽しい思い出が甦ればいいのですけれどね(笑)。

西野氏が最後に付けた時計 ジャガー・ルクルト ポラリス・オートマティック¥815,400(税込)

 

構成・文 柴田充

 

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広田雅将さん

広田 雅将
Masayuki Hirota

時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長

1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。

西野 朗さん

西野 朗
Akira Nishino

サッカー指導者

早稲田大学卒業
1974年~79年 日本代表
2002~2011年 ガンバ大阪監督
2012年 ヴィッセル神戸監督
2014~2015年 名古屋グランパス監督
2018前サッカー日本代表監督

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