第3回「時計から学ぶ、ブランドとしてのあり方」
広田:時計はやっぱり好きなものだけ買う。シンプルに戻ったということですか。
ベルトは藤原ヒロシ氏にいただいたもの。
杉本:そうです。ブラックのデイトナは、ロンハーマンがバンフォードに別注したモデルです。バンフォードさんの姿勢や価値観を認めて、オークション・サイトでも結構高くなっているようですね。
広田:いつ買われたんですか。
杉本:2、3年くらい前だったかな、忘れました。
広田:杉本さんの時計の選び方は、商いに通じるなと思いますね。ぶれていないし、王道だし。自分が好きだけど一般性があるというところで、ご本人に通じる要素があるじゃないですか。これがグランド コンプリケーションだけ並べられても、確かにすごいけれども、普通の人には引っかからない。
杉本:そうでしょうね。でもパテック フィリップの5970とか3970は格好いいなと思いますね。あれも何十年経っても変わらなそうな気がしますよね。
広田:なるほど。いまや周囲からも杉本さんは復活と思われているじゃないですか。普通だったら、それこそパテック フィリップを買ってしまいそうですが、そうならないというのがすごい。スタンスは変わらないというか、本来の姿に戻った象徴がデイトナなのでしょうね。これまで多くの変節がある中で、変わらずに時を刻み続けている。
杉本:ずっと一生持っていくんだろうなと思いますね。
広田:でも好きなものにフォーカスして、価値も外さないというのは、天賦の才能じゃないですか。
杉本:いやいや。失敗してガラクタになっているのもありますよ。ものの値段の決まり方というのは、全部同じだと思います。やっぱり受給バランスであり、不動産でいえば理論値に基づいて買っていますし、感情的にはなっていないんですね。でも一方で、お金以上の、我々のブランド価値を毀損しないかということを考えます。その影響は、結果としてお客さんや銀行に派生しますし、儲かるからやるんじゃなくて、どういうことをやりたいかを明確にする。そんなこだわりを大切にしたいと思います。
広田:それがブランドになるということかもしれませんね。その中でラグジュアリーブランドから学ぶところはありますか。
杉本:勉強させられます。パテック フィリップは、全世界どこに行っても、どんな代理店から誰から買っても、絶対値引きしないですよね。そういう姿勢がすごいじゃないですか。値引きすればもっと売れるけど、それがパテック フィリップというブランド価値を毀損する。だからしない。フェラーリにしても、ブランドとしての価値とは何かを追及して、それは走ることであり、デザイン。徹底して世界一速くて美しい車を作るという姿勢に、ものすごく共感や共鳴しますし、うちのマンションのブランドもそうありたいと思う。
広田:だからブランドになるわけですよね。
杉本:ブランドを作っていくというのはどういうことなのか。それはこだわりだと思います。自分たちも商品の価値を維持してくために、迷ったら手間や金をかけろと。お客さんのためにやったことは、結局戻ってくるのですから。
構成・文 柴田 充
写真 奥山栄一
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広田 雅将
Masayuki Hirota
時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長
1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。
杉本 宏之
Hiroyuki Sugimoto
シーラホールディングス会長
1977年生まれ。高校卒業後、住宅販売会社に就職して22歳でトップ営業マンとなる。24歳のときにエスグラントコーポレーションを設立。デザイナーズワンルームマンションの開発を皮切りにプロパティマネジメント、賃貸仲介業、人材派遣業、リノベーションなどと事業を拡大し総合不動産企業に成長させる。2005年には名証セントレックス市場に業界最年少で上場を果たす。2008年、リーマン・ショックによって業績が悪化し、負債400億円を抱えて、2009年3月民事再生を申請。2010年にSYホールディングスを設立し、現在は売上高100億円を超えるまでに成長。著書は『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』(ダイヤモンド社)など。