第1回「父からの時計と成長を刻む時計」
広田:日本橋三越本店の時計サロンがウォッチギャラリーとしてリニューアルし、時計愛好家からも注目を集めています。そのお話もぜひ伺いたいと楽しみにしてきました。早速ですが、愛用の時計から4本をお持ちいただいたので、まずそれについてご説明をお願いします。
牧野:2本のオメガは父から引き継ぎました。71年か72年に父が初めてパリに行き、記念になるものをということで買ったそうです。もう一本は、一緒に香港に旅行に行った時に購入しました。
広田:多分シーマスターのキャリバー560系入りと1000系入りでしょうね。
牧野:両方とも動かなくなり、1本は部品がないと言われてしまい、8か月くらい修理にかかって実は直ってきたばかりです。
広田:そうですか。年代的には60年代後半から70年代頭以降という感じですね。これを購入されたとは、お父様はどんなお仕事をされていたのですか。
広田:えーっ、そういうことですか。
牧野:ロレックスの2本は、自分が課長になった時と部長になった時にそれぞれ記念に買いました。いま着けているティファニーは、役員になった時、ちょうどプロジェクトに入っていたので購入しました。
広田:今、何本時計をお持ちですか。
牧野:10本です。
広田:選ぶ時はどのような基準で?
牧野:私は紳士服の出身なので、服とのマッチングを考えます。そして色です。
広田:お父様から時計を受け継ぎ、さらに親子で百貨店という自体が、百貨店と顧客、牧野さんの時計との付き合い方とがシンクロするような気がします。
牧野:三越が115年前に「デパートメントストア宣言」をしてから、親子三代のおつき合いも珍しくありません。いまも一生お付き合いすることを大切にしています。時計もまさにそんな“つなぐ”存在ではないでしょうか。
広田:それがお父様の時計を大切にする理由であり、なるほど三越ってこういうものなんだなと思います。
牧野:そういうスピリットがあるのかもしれないですね。
広田:ところで服で合わせて選ぶなかで、ご自身で何か決まりはお持ちですか。
牧野:基本的にはスポーツウォッチが多いので、お客様やお取り組み先と会う時は、結構気を遣います。華美なものはしないとか。あとはビジネスでも勝負の日は、気持ちが上がるような時計を選びます。一番高いものを着けたりして(笑)。
広田:具体的にどんなシーンなんでしょう。
牧野:プレゼンテーションだったり、お取り組み先様と最後の交渉をする時です。でも気持ちだけで、助けてはくれないんですけどね、全然(笑)。
取材・構成 柴田 充
写真 奥山栄一
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広田 雅将
Masayuki Hirota
時計ジャーナリスト・時計専門誌『Chronos日本版』編集長
1974年大阪府生まれ。会社員を経て、時計専門誌クロノス日本版編集長。国内外の時計賞で審査員を務める。監修に『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)が、共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞刊)『アイコニックピースの肖像 名機30』などがある。時計界では“博士”の愛称で親しまれており、時計に関する知識は業界でもトップクラス。英国時計学会会員。
牧野 伸喜
Nobuki Makino
三越伊勢丹 執行役員 日本橋三越本店長
1961年生まれ。大学卒業後、株式会社三越に入社し、日本橋三越本店に配属。その後、名古屋三越や仙台三越などに勤務。長く紳士部門を担当。伊勢丹浦店店長を経て2019年4月より現職。